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column.1 がんになる仕組み

がんになる仕組み

「うちは胃がんの家系なので自分も胃がんになるかもしれない・・・」、このような「がん家系」の話をよく耳にしますが、本当にそうなのでしょうか。本当だとすると、数字的に日本人の二人に一人ががんになる事実を考えると、日本人のほとんどが「がん家系」ということになってしまいます。

人は約60兆個の細胞からできていると言われ、そのうちの約1%の細胞が日々入れ替わっています。つまりその分の細胞を細胞分裂で補う必要があるわけですが、その細胞分裂のたびごとに、細胞中に格納されている遺伝子をコピーしなければなりません。その際、ほんのわずかですが、なんらかの原因でコピーの間違い(傷)が生じてしまいます。この間違った遺伝子を持った細胞が、無秩序に増えるようになってしまったのが「がん」なのです。

この間違った遺伝子を持った細胞は、どんな健康な人でも一日に5,000個程度生まれていると言われていて、その意味では私たちは常にがんになるリスクを抱えているということになります。しかし、かならずしもすべての人ががんになるというわけではありません。なぜなら、そのような異常な細胞が生じたとき、人間には異常細胞を排除する機能が生まれながらにして備わっているからです。つまりそれが私たちに与えられている自己免疫能力なのです。

しかし、免疫力も歳とともに衰え、今まで排除できていた異常な細胞を排除しきれなくなります。そして排除しきれずに残ってしまった細胞は、遺伝子の異常を重ねてさらに5年、10年、20年と増殖していきます。やがて画像診断に写るほどの大きさ(5㎜程度)になったとき初めてがんと診断されるというわけです。診断後は、手術、放射線、抗がん剤といった耐え難い治療が施されるわけですが、もし画像診断などのがん検診で発見されなければ、自覚症状があるまで放置され、手遅れになってしまうことになります。

では、こうした事態を招く前に、私たちにできることはないのでしょうか。

遺伝子に異常が生じ、免疫機構をすり抜けた細胞は、5年から20年かけて5mm程度の大きさになりますが、その時点でも自覚症状はありません。しかし、自覚症状を伴わないうちに発見し治療を行えば、その後の治癒率は格段に向上します。つまり、日頃から定期的ながん検診で早期発見の努力をすることが大切となります。

しかし、私たちにとってもっと重要なのは、日々の生活において遺伝子コピーの間違いが発生してしまう環境や物質を排除し、間違った遺伝子をできる限り増殖させない体を作ることです。遺伝子解析技術の進歩で、DNAレベルで体の中のがんのリスク度を判定する検査なども開発され、超早期にがんリスクを評価する手段も登場しています。こうした方法を通して、現状の「がんリスク」を把握し、自らの健康状態や生活習慣を見つめ、その維持・改善を図ることが大切です。その結果として、免疫力のある、がんになりにくい体作りができれば、がん予防も可能になるのです。

増え続ける日本のがん患者

主要死因別粗死亡率年次推移

厚生労働省の発表によれば、がんは1981年に脳血管疾患を抜いて死因の一位になりました。そして、その後もがんは増加し続け、2009年には、亡くなった方約114万人のうち、がんで亡くなった方が約34万人となり、死因の30%を占めるに至りました。また、2005年のがんの罹患および死亡データによると、日本人の2人に一人ががんにかかると推定されています。

このように、日本はまさに「がん大国」になってしまいましたが、がんの罹患率が上昇しているのは先進国の中では日本だけであり、実際に米国では1990年を境にがんの罹患率および死亡率が低下し始めているのです。

デザイナーフーズ・プログラム

ではなぜ、日本ではがんが増え続け、米国ではがんの罹患率や死亡率が減少しているのでしょうか。

米国では1970年代から「がんや心筋梗塞の原因とライフスタイルとの関連性」に関する調査が進められ、1977年に「アメリカ合衆国上院栄養問題特別調査委員会報告書(通称マクガバン報告)」がまとめられました。その報告から、「心臓病やがんなどの慢性疾患は、偏った食生活がもたらした食源病である」ことが示され、それまで中心であった高カロリー・高脂肪の肉食から、穀物・野菜・果物を中心としたミネラル豊富なオーガニックフード中心の食事に変えるよう、強い警告が出されました。また1990年には米国国立癌研究所を中心に、がんの予防に効果の高い食物「デザイナーフーズ」(右図)が発表されるなど、医療における栄養学の重要性が強く認識されるようになりました。

一方、日本の現状はどうでしょうか。わが国では、近年、古来の野菜や魚を中心とした日本食から、肉類を中心とした食の欧米化が急速に進みました。つまり、米国とはまったく逆の方向をたどっているのです。

先のマクガバン報告では「がんを予防する効果がもっとも高いのは、日本の元禄時代の食事である」との記載があり、日本食に対して非常に高い評価を与えています。その優れた日本食文化を、私たち日本人は戦後、高カロリー・高脂肪の食習慣へと変えてしまったのです。以来、わが国はがん大国への道をまっしぐらに歩み続けているのです。

次に、がんの原因のひとつとされている喫煙に目を向けてみましょう。

がんの原因

米フレッドハッチンソンがん研究センターは、米国では1950年代半ばからの喫煙率の低下により、1975~2000年に肺がんによる死亡数が大幅に減少したと、米医学誌「Journal of the National Cancer Institute」(2012)に発表しています。センターは、肺がんは依然として大きな脅威とし、禁煙に向けたさらなる対策が必要と指摘しています。

公共の場での喫煙制限や、たばこ税の引き上げ、たばこへのアクセス制限、さらにたばこが健康に与える害に関する啓発が進んだことで、米国では1950年代半ば以降、喫煙者数を減らすことに成功しているのです。

そこでわが国の現状ですが、2011年の日本の喫煙率は、男性が約38%、女性が11%と発表されています。男性については、減少傾向にあるものの米国の約20%に比べて依然として高く、また女性では増加傾向にあります。

国立がんセンターの調べで、たばこを吸う人のがんの発生率は、吸わない人に比べて、男性では1.6倍、女性で1.5倍に高くなっています。吸っている人でも、1日当たりの喫煙本数の多い人や長年吸っている人では、がん全体の発生率がより高くなっており、日本人ががんになる確率が高い原因のひとつでもあると推測されるのです。

遺伝子のコピーに間違いが生じる、つまりがんが発生する原因の研究が進み、さまざまな要因が指摘されていますが、まさに喫煙と食事が予防可能な最大の原因のひとつであり、これを改善することにより、がんになるリスクを大きく下げることができると言えるのです。

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トーマス・M・キャンベル 著
松田麻美子 訳
グスコー出版 各巻とも
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